11番歌~20番歌
わたの原
八十島
やそしま
かけて
こぎいでぬと
人には告げよ
あまのつり舟
参議篁
さんぎたかむら
(篁は)はるか大海原を多くの島々目指して漕ぎ出して行ったと、都にいる親しい人に告げてくれないか、そこの釣舟の漁夫よ。
天
あま
つ風
雲のかよひ
路
じ
吹きとぢよ
をとめの姿
しばしとどめむ
僧正遍昭
そうじょうへんじょう
空吹く風よ、雲の中にあるという(天に通じる)道を吹いて閉じてくれないか。(天に帰っていく)乙女たちの姿を、しばらくここに引き留めておきたいから。
つくばねの
峰
みね
よりおつる
みなの川
恋ぞつもりて
淵
ふち
となりぬる
陽成院
ようぜいいん
筑波山の峯から流れてくるみなの川も、(最初は小さなせせらぎほどだが)やがては深い淵をつくるように、私の恋もしだいに積もり、今では淵のように深いものとなってしまった。
みちのくの
しのぶもぢずり
たれゆゑに
乱れそめにし
われならなくに
河原左大臣
かわらのさだいじん
奥州のしのぶもじずりの乱れ模様のように、私の心も(恋のために)乱れていますが、いったい誰のためにこのように思い乱れているのでしょう。 (きっとあなたの所為に違いありません)
君がため
春の野にいでて
若菜つむ
わが衣手に
雪はふりつつ
光孝天皇
こうこうてんのう
あなたのために春の野に出て若菜を摘んでいましたが、春だというのにちらちらと雪が降ってきて、私の着物の袖にも雪が降りかかっています。 (それでも、あなたのことを思いながら、こうして若菜を摘んでいるのです)
たちわかれ
いなばの山の
峰
みね
に
生
お
ふる
まつとし聞かば
いま帰りこむ
中納言行平
ちゅうなごんゆきひら
あなたと別れて(因幡の国へ)行くけれども、稲葉の山の峰に生えている松のように、あなたが待っていると聞いたなら、すぐにも都に帰ってまいりましょう。
秋の田の
かりほの
庵
いほ
の
苫
とま
をあらみ
我が衣手は
露
つゆ
にぬれつつ
天智天皇
てんじてんのう
秋の田の側につくった仮小屋に泊まってみると、屋根をふいた苫の目があらいので、その隙間から忍びこむ冷たい夜露が、私の着物の袖をすっかりと濡らしてしまっているなぁ。
ちはやぶる
神代
かみよ
もきかず
竜田川
たつたがわみ
からくれなゐに
水くくるとは
在原業平朝臣
ありわらのなりひらあそん
(川面に紅葉が流れていますが)神代の時代にさえこんなことは聞いたことがありません。竜田川一面に紅葉が散りしいて、流れる水を鮮やかな紅の色に染めあげるなどということは。
すみの江の
岸による波
よるさへや
夢のかよひ
路
じ
人めよくらむ
藤原敏行朝臣
ふじわらのとしゆきあそん
住の江の岸に打ち寄せる波のように (いつもあなたに会いたいのだが)、 どうして夜の夢の中でさえ、あなたは人目をはばかって会ってはくれないのだろう。
難波潟
なにわがた
みじかき
葦
あし
の
ふしのまも
あはでこの世を
すぐしてよとや
伊勢
いせ
難波潟の入り江に茂っている芦の、短い節と節の間のような短い時間でさえお会いしたいのに、それも叶わず、この世を過していけとおっしゃるのでしょうか。