1番歌~10番歌
秋の田の
かりほの
庵
いほ
の
苫
とま
をあらみ
我が衣手は
露
つゆ
にぬれつつ
天智天皇
てんじてんのう
秋の田の側につくった仮小屋に泊まってみると、屋根をふいた苫の目があらいので、その隙間から忍びこむ冷たい夜露が、私の着物の袖をすっかりと濡らしてしまっているなぁ。
春過ぎて
夏来
なつき
にけらし
白妙
しろたえ
の
衣干すてふ
天の
香具山
かぐやま
持統天皇
じとうてんのう
もう春は過ぎ去り、いつのまにか夏が来てしまったようですね。香具山には、あんなにたくさんのまっ白な着物が干されているのですから。
あしびきの
山鳥の尾の
しだり尾の
ながながし夜を
ひとりかも寝む
柿本人麻呂
かきのもとのひとまろ
夜になると、雄と雌が離れて寝るという山鳥だが、その山鳥の長く垂れ下がった尾のように、こんなにも長い長い夜を、私もまた、(あなたと離れて)ひとり寂しく寝るのだろうか。
田子の浦に
うち出でて見れば
白妙
しろたえ
の
富士の
高嶺
たかね
に
雪は降りつつ
山部赤人
やまべのあかひと
田子の浦の海岸に出てみると、雪をかぶったまっ白な富士の山が見事に見えるが、その高い峰には、今もしきりに雪がふり続けている。(あぁ、なんと素晴らしい景色なのだろう)
奥山に
紅葉
もみじ
踏み分け
鳴く鹿の
声聞く時ぞ
秋は悲しき
猿丸大夫
さるまるだゆう
奥深い山の中で、(一面に散りしいた)紅葉をふみわけて鳴いている鹿の声を聞くときは、この秋の寂しさが、いっそう悲しく感じられることだ。
鵲
かささぎ
の
渡せる橋に
置く
霜
しも
の
白きを見れば
夜ぞ
更
ふ
けにける
中納言家持
ちゅうなごんやかもち
かささぎが渡したという天上の橋のように見える宮中の階段であるが、その上に降りた真っ白い霜を見ると、夜も随分と更けたのだなあ。
天
あま
の原
ふりさけ見れば
春日なる
三笠の山に
出でし月かも
阿倍仲麿
あべのなかまろ
大空を振り仰いで眺めると、美しい月が出ているが、あの月はきっと故郷である春日の三笠の山に出た月と同じ月だろう。(ああ、本当に恋しいことだなあ)
わが
庵
いほ
は
都の
辰巳
たつみ
しかぞ住む
世をうぢ山と
人はいふなり
喜撰法師
きせんほうし
私の草庵は都の東南にあって、そこで静かにくらしている。しかし世間の人たちは(私が世の中から隠れ)この宇治の山に住んでいるのだと噂しているようだ。
花の色は
移りにけりな
いたづらに
わが身世にふる
ながめせしまに
小野小町
おののこまち
>
花の色もすっかり色あせてしまいました。降る長雨をぼんやりと眺めいるうちに。 (わたしの美しさも、その花の色のように、こんなにも褪せてしまいました)
これやこの
行くも帰るも
別れては
知るも知らぬも
あふ坂の関
蝉丸
せみまる
これがあの有名な、(東国へ)下って行く人も都へ帰る人も、ここで別れてはまたここで会い、知っている人も知らない人も、またここで出会うという逢坂の関なのだなあ。